キャンペーン第三話

  豪雨であった。単なる大嵐なのか、はたまた怪物のしわざか、運悪く転覆した船に乗り合わせた一行は、たどり着いた海岸を背に森林へと分け入っていった。しばらく歩き続けると、轟音が響いてくる。何の音だろうか・・・。不安に思った一行が陽光棒に点火すると、陽光棒の緑がかった光はごうごうと流れる濁った川を映しだした。川の流れは凄まじく、まるで滝のようだ。落ち葉や木々ばかりか、鹿だろうか、動物の死体も流されていくのが見えた。

 「ひどい濁流になっておるな・・・」ソーリンの顔は厳しい。
 「増水してそうだね、渡れるかなー?」レギンも軽口ではあるが、濁流をにらみつけていた。

 橋、はあった。増水する水の中、かろうじてではあったが、まだ水没はしていない。とはいえ、みるみる増えていく水かさに今にも飲み込まれそうである。一行は橋のたもとまで急ぐ。すると、激しい雨の向こう、おぼろげではあったが、明りらしききらめきがいくつか輝いているのに気がついた。

 「助かった!明りだ・・・。村かな?」フェフラが安堵の表情を見せる。 
 「急ごうよ!はやくしないと、渡れなくなっちゃうよ!」ヴォルテールが走り出そうとしたその時、
 「待て!」「待って!」ソーリンとカレリクが同時に叫び、目を合わせうなづく。

 バチバチと叩きつけるような雨音と、ゴウゴウと流れる濁流。その轟音の中をなお、つんざくような遠吠えが一声、響き渡る。呼び声に応えるように、数多くの吠え声や唸り声が聞こえてきた。

 「何かいるようですね。警戒して下さい。」カレリクが弓を構えながら、低い声で促す。ダガー、ウォーハンマー・・・それぞれが命をあずける得物を握りしめる。

 1頭、2頭、3頭・・・。もっといる。橋の向こうに現れたのは狼の群れのようであった。狼たちは、その目に陽光棒の光が反射した緑色のぎらめきを光らせている。と、その瞬間、猛烈な勢いで襲いかかってきた!もっとも素早い1頭がレギンに迫る。

 「こい!」ダガーを構えようとしたレギンだったが、一瞬狼の方が速かったようだ。レギンの肩から袖伝いに血が流れた。

 「むう!」意外にも素早く反応したのはドワーフのソーリンであった。
 「モラディンよ、その慈悲の涙により、こ奴らを静まらせたまえ!フォント・オヴ・ティアーズ」ソーリンの念唱により、豪雨に入り混じり銀の雨が降り注ぐ。ただの雨ではない。ソーリンの周囲におぼろげな光が浮かぶ。「く、くぅううん」何匹かの狼は目に怯えの色を浮かべ、戸惑っているようだ。
 
 「ソーリンさん、あとは任せろ!」ヴォルテールが飛び出してくるとともにブレスを放つ。雷鳴とともに狼が1匹吹っ飛び、焼け焦げる。
 「まず1匹」ヴォルテールは怒りの形相で狼たちを睨みつけると、奴らもにらみ返してくる。

 「いくよ」フェフラが片手を目の前に掲げ、意識を集中すると手のひらに火の球があらわれた!
 「スコーチング・バースト!」フェフラの詠唱とともに、火の球は一直線に狼の群れに飛び込み、爆発する。直撃した狼は黒こげに燃え上がり、鳴き声もあげずに倒れる。周囲の狼はさすがに野生の動きを見せ、巧みに避けるが、逃げ遅れた1匹の首すじの毛から煙が立ち上る。

 「ここは攻めるべきですね」カレリクが果敢に突っ込んでいく。目にもとまらない早業で立て続けに2本の矢を放つ。さすがに2本は予想外だったか、1本の矢が狼の体に突き刺さる。

 「さて、僕もお返ししないとね」レギンの血は止まったようだ。その腕が軽く振られただけのように見えたが、「・・・どさっ」レギンの短剣は襲いかかってきた狼を華麗に一差ししていた。
 「残るはでかい奴か。やっちまおう」レギンは巧みなステップで狼に近寄り、短剣をふるう。いや、ふるったかに見えたが、バランスをくずしていた。この豪雨である。皆、足元がおぼつかない。

 唸りのような地響きが足元から伝わってくる。突然、川の上流から巨木が流されてきて、橋に激突した。あわや橋が流されるかと思われたが、巨木は橋を乗り上げ、下流へと流れていく。だが、橋がぐらつき出したのも確かである。もう一度同じようなのが来たら橋が危ない・・・一行の脳裏にいやな予感がよぎる。

 一瞬の油断をつかれたか、狼が次々と飛びかかってくる。なかでもひときわ大きな狼が回転しながら、カレリクの太股の生地を食いちぎる。

 「・・・ぐっ!」思わず、カレリクが苦悶の声を上げる。
 「待っておれ。ヒーリングワード!」すかさず、ソーリンが詠唱すると、カレリクの体を温かな光が包む。カレリクは顔に安堵の表情を浮かべる。

 「お返しです!」カレリクは弓をつがえると、鋭い矢が狼に突き刺さる。
 「まだまだ!」さらにカレリクが放った矢は2本に分かれたかと思うと、それぞれ別の狼へと飛んでいく。
 「当たれ!」ヴォルテールの願いが通じたか矢はどちらも狼に命中したようだ。

 狼たちの傷も浅くはないようだが、まだかかってくることを止めようとはしない。一行の疲労の色も濃い。先に動いたのは狼たちだった。再び飛びかかろうとしたのか、狼たちが距離をとったその時!
 ズドドド・・・。何の予兆もなく、地面が裂け水が噴出してきた。川沿いにいた狼が何匹か直撃を受け、倒れる。自然の力に恐れをなしたか、数的不利に気づくほど賢かったのか、狼たちは怯えた表情を浮かべ始めた。
 ヴォルテールはその隙を逃さなかった。ロングソードを構え、狼の1匹に振りかざす。その迫力に恐れをなしたのか、狼の群れは逃げていった。

 「ふう、これぐらいでいいよね」ヴォルテールがソーリンに尋ねる。
 「そうじゃな、悪鬼の類ではなし、追い払いさえすればよい。それより早く休みたいものじゃ」ソーリンが答える。
 「ちぇ、ちょっと動き足りないけど、次の機会かな」そういうレギンの唇はすっかり紫だ。
 「ともかく、急ぎましょう。ここは危険です」カレリクが促す。

 一行が急いで橋を渡りきったその瞬間、橋は大きなうねりに飲み込まれ、濁流へと流されていった。

 「ふわー、危なかったね」フェフラが緊張した面持ちで流れた橋を見つめる。

 そして、ほどなくして一行はさきほど見えた明かりの村へと到着する。「リンド」という村らしい。冷え切った体をまず温めることが先決だ。小さな村だ。宿屋もすぐに見つかるだろう。そして、その宿屋が新たな出会いと冒険への幕を開くことになる。

 さて、一行の運命やいかに。
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# by geleb | 2011-10-19 11:16 | D&D4e